玉名山部田熊野座神社 波兎

山部田熊野座神社の波兎(熊本県玉名市)


玉名市は熊本県の北側、有明海に注ぐ菊池川沿いにあります。古代より山の幸海の幸が豊かな地域で、国内だけでなく、半島、大陸との交易も盛んに行われていた地域です。「玉名」の地名は『日本書紀』にも見え、「玉杵名邑(タマキナムラ)」と記載されています。「タマキナ」とは「魂来名」のことで、「タマ」は霊、「キ」は来、「ナ」は地域を意味し、つなわち「神霊が依り来る聖地」とも解されるようです。

玉名山部田 水田

季節は初秋。水田が黄金色に色づき、穂が垂れ始めています。

玉名山部田熊野座神社 参道鳥居

海から菊池川を遡った山の端に向かいます。鳥居を抜けて、

玉名山部田熊野座神社 鳥居

一番奥に山部田の熊野座神社は鎮座します(熊本県玉名市山部田393)。それほど大きくは無いですが地域に大切にされていて、この日も皆さんで参道の掃除をされていました。お邪魔いたします。

玉名山部田熊野座神社 神橋

山門手前の池には橋がかかっています。太宰府天満宮もそうですが、境内との境目に橋がある神社、関西側に多い気がします。清めの橋なのでしょう。

玉名山部田熊野座神社 山門

橋を渡って階段の先は立派な山門です。

玉名山部田熊野座神社 山門

その鴨居に・・

玉名山部田熊野座神社 波兎(中央)

白波が立った青海原に跳ねる波兎の彫刻。こちらは中央側。

玉名山部田熊野座神社 波兎(左)

こちらが左側。先を走って見返っています。
山門の赤い柱と、波の水色、波濤の白、神兎の白が鮮やかです。

玉名山部田熊野座神社 亀

その右側は、亀のようです。
もちろん、兎と亀といえば「イソップ物語」を思い出し、ここは南蛮貿易の地九州で古くからこの寓話も伝わっていますので、とも思いましたが、意匠的にいうと、追いかけあっているわけでもないですし、そこは偶然なのでしょう。

むしろ亀は、波兎とともに、水に関わる吉祥の神使としてよく現れます。「水」でのつながりかと思われます。

玉名山部田熊野座神社 山門 天井画の龍

山門の天井画には龍が描かれています。こちらも雨を司る神獣。こちらも水を思い起こさせます。

玉名山部田熊野座神社 山門 背面

山門の後ろ側へ回ってみますと、

玉名山部田熊野座神社 山門 彫刻

後ろ側の鴨居の彫刻は、波に泳ぐ魚。鯉などでしょうか。鯉は滝を登れば龍となります。

こちらの山門、かなり水に縁があるようです。

玉名山部田熊野座神社 仁王像

で、先程、その姿のあまりのインパクトにスルーしてしまいましたが・・・

こちらの仁王様達。失礼ながら「うっふん」という言葉が浮かんでくるようなコミカルさ。注連縄が南国の水着にも見え、メディアでは「セクシー仁王像」「ハワイアン仁王像」として取り上げられたりもしているようです。これもまた水辺・・・というのはさすがに言い過ぎですね。

玉名山部田熊野座神社 拝殿と本殿

山門の先は拝殿と本殿です。

熊本県玉名市山部田熊野座神社は紀州三社(和歌山県)を総本部として全国に散在する熊野系の神社です。口伝えによると平安時代(10世紀後半、長保元年ごろ)に建立され、千年の歴史があるとされています

「山部田熊野座神社の由来」(境内山門掲示)より

熊野三社(本宮(熊野本宮大社)、新宮(熊野速玉大社)、那智(熊野那智大社))を勧請した神社であることが書いてあります。全国に広がっている熊野信仰。祀っている神々は微妙に異なるのですが、おおよそ、伊邪那美(熊野夫須美大神)・伊邪那岐命(熊野速玉大神)・素盞嗚尊(家津御子大神)の三神とその御子神を祀っていることが多いようです。

玉名山部田熊野座神社 拝殿中

熊野本宮大社HPによると、「熊野本宮大社は過去「熊野坐神社(くまのにいますじんじゃ)」と号し」とあり、ここから「熊野座神社」という社名が広がっていったと思われます。熊本の各地には「熊野座神社」「熊野坐神社」が点在し、この地方の熊野信仰の盛んさがうかがえます。

そういえば、熊本の「クマ」と、熊野の「クマ」の語源は同じなのでしょうか。
「熊本」の方は、元々は「隈本」と書いていたようですが、加藤清正が「畏」の字があることを嫌って「熊本」と改めています。大元の「クマ」自体は「低い土地と高い土地が入り組んでいる」「川が曲がりくねっている」という意味があるとのこと。
「熊野」の「クマ」も由来は様々言われています。古事記では、神武天皇が熊野村で「大熊」に出会っていますが、これは古事記特有の地名の神話への取り込みでしょう。『紀伊続風土記』によると、もとはやはり「隈」で、山と川が深く鬱蒼とした木々から来ているとのこと。折口信夫は「田の神への供物」とも。
・・色々言われていますが、「深い山々を表す」という同語源の可能性はかなりありますね。

玉名山部田熊野座神社 賽銭箱 鷹の羽紋

神紋は「並び鷹の羽」です。平安よりこの地方の有力武家であった菊池氏のものです。阿蘇神社の神紋が「違い鷹の羽」で、この地方の結びつきを感じます(阿蘇神社の方が先なんでしょうか? 蒙古襲来絵巻にはすでに菊池氏が「並び鷹の羽」を使っているのが見えています)

玉名山部田熊野座神社 本殿

本殿です。屋根が重厚。切り立った形が美しいです。

玉名山部田熊野座神社 本殿 力神

矢切の一番上で、棟を支えている彫刻があります。「力神りきじん」さん。全国各地で筋肉を盛り上げ踏ん張っている姿を見ることができますが、屋根ごと支えているのは初めて見ました。この地方特有かも。

玉名山部田熊野座神社 本殿 波兎

蛙股には神獣があしらわれており、そのうち一つには神兎もいらっしゃいました。こちらも波兎ですね。

玉名山部田熊野座神社 神木 ナギ玉名山部田熊野座神社 神木 ナギ 説明書

神社左奥には、ご神木があります。「ナギ(梛)」の木は、熊野信仰において重要な木。災禍をナギ払い、強い葉のように縁を繋ぐ霊験を持ちます。また説明書きによると「波のない平穏な状態「凪」につながることから、船乗りに特に信仰されている」ともありました。

奥深い山、清らかな水。各地の熊野信仰通じて存在するイメージです。

写真を撮りながら境内を拝見していると、氏子の方をと話をすることができました。波兎や仁王像、力神さんの話をしましたら、そういえば近くの神社にも似た仁王像や力神さんがいるよ、と教えてもらいました。それは行ってみなければ。

梅林天満宮

玉名 梅林天満宮

ということで、移動してきたのは、熊野座神社から2kmくらいの「梅林天満宮」です(熊本県玉名市津留499)。二層の楼門が立派。
そしてその楼門に、熊野座神社で聞いた通り・・

玉名 梅林天満宮 楼門

屋根に力神様、左右にセクシー仁王像!確かに!

玉名 梅林天満宮 楼門 力神

力神さんは、こちらでは唐破風を正面で支えています。オレに任せろ感が頼もしい。

玉名 梅林天満宮 楼門 仁王像

そしてこの独特の意匠の仁王像。左右同じ手の挙げ方で“シンクロ”してらっしゃいます。

玉名 梅林天満宮 境内 像

天神様の神使の牛の像。三猿は庚申講のものでしょうか。こちらもこの地方でよく見かけました。

玉名 梅林天満宮 本殿

天満宮ということで祭神は菅原道真公ですが、説明書によると、日本全国に一万二千件ある天満宮のうち、道真の死後2年後に作られた太宰府天満宮に続いて、一番先にできた“第一分霊社”がこちららしい。すごい。どんなご縁があったんでしょうか。

有明海へ出てみる

有明海から雲仙岳を望む

さて。海沿いへ出てみました。広がる有明海の向こうには雲仙岳が見えています。海の幸の豊かなこの地・・・とすれば・・・

有明海伊勢海老

伊勢海老〜♪

有明海舟盛り

豪華舟盛りを頂くことができました。この自然の豊かさが熊本だなぁ。

(参拝:2019年10月)


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