兎と月とかぐや姫


神兎研のページを立ち上げたばかりで、脱線で恐縮です。

高畑勲監督「かぐや姫の物語」を観てまいりました。スタジオジブリ最新作。
スケッチタッチのアニメは、ちょっと関わる業界の私としては、「よく描けてるなぁ、大変だったろうなぁ」と。制作費50億円! さすがジブリ。

内容についてはネタバレになるので、避けまして…。

神兎研としては、2つのことに注目します。
「竹」と「月」です。

原作は「竹取物語」。日本最古の物語として知られています。

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今は昔、竹取の翁(おきな)といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造(みやっこ)となむ言ひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。

竹を取って暮らしているお爺さんが、竹林で光る竹を見つけ、中を見てみたら約10cmの人がかわいらしくいた、という冒頭。現代のボーイミーツガールの原型です(違)。※竹の中から人を見つけるという話は、アジア各地に類型がみられるとのこと。

日本に古代からあったのは、チシマザサという細い笹であり、3寸の人が入っていられるマダケのような太いものは8世紀(奈良時代~平安時代初期)に南方からもたらされたようです。当初は貴族階級のみが栽培をしていました。竹取物語の成立が9世紀末~10世紀中頃と言われています。

記紀には竹に関わる記述がいくつかみられます。
天照大神は、孫である邇邇芸命(ニニギノミコト)が地に降り(天孫降臨)、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)と子をなします(一夜で!)。火照命(ホデリノミコト・海幸彦)・火須勢理命(ホスセリノミコト)・火遠理命(ホオリノミコト・山幸彦)が生まれた時、竹刀でへその緒を切り、その竹の刀が後に竹林になったとか。
同じく、火遠理命が塩椎神(シオツチノカミ)からもらった竹で編んだカゴで、綿津見神(ワタツミノカミ)へと誘っています。

竹は、便利で神聖。

現代でも竹林に入ると、静かな厳かな雰囲気を感じます。竹が中空であるということも、物語を生みやすくしているのかもしれません。

で、本題。
兎神様も竹に関わっています。
「因幡国風土記」の原本自体は失われてしまっておりますが、その逸文として「塵袋(ちりぶくろ)」(成立:鎌倉時代後期。「因幡ノ記」を引用している)が残っています。

因幡ノ記ヲミレバ、カノ國ニ高草ノコホリ(郡)アリ。ソノ名ニ二ノ釋アリ。一ニハ野ノ中ニ草ノタカケレバ、タカクサト云フ。ソノ野ヲホリノ名トセリ。一ニハ竹草ノ郡ナリ。コノ所ニモト竹林アリケリ。其ノ故ニカク云ヘリ。(竹ハ草ノ長ト云フ心ニテ竹草トハ云フニヤ)
其ノ竹ノ事ヲアカスニ、昔コノ竹ノ中ニ老タル兎スミケリ。アルトキ、ニハカニ洪水イデキテ、ソノ竹ハラ、水ニナリヌ。浪アラヒテ竹ノ根ヲホリケレバ、皆クヅレソンジケルニ、ウサギ竹ノ根ニノリテナガレケル程ニ、オキノシマ(隱岐の島)ニツキヌ。又水カサ(量)オチテ後、本所ニカヘラント思ヘドモ、ワタルベキチカラナシ。其ノ時、水ノ中ニワニト云フ魚アリケリ。

高草郡(たかくさのこおり。鳥取県千代川の西側。白兎神社付近)という名前の由来のひとつに、昔ここに竹林(竹草)があってそれが訛ったのでは、という一説とともに、この竹林に「老タル兎」が住んでいたとあります。洪水がその竹林を襲った時、兎は竹の根に掴まっていたが丸ごと流されてしまい、隱岐の島に辿り着いたとのこと。やがてそこで「ワニ」という魚に出会います。

つまり、これは古事記にある「因幡の素兎」説話の前日譚となっています。

兎神様が竹林にいた!

同じ竹林出身のかぐや姫にちょっと親近感が湧いてまいりました。

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そして「月」。
かぐや姫は月の世界から来たとされています。

かぐや姫泣く泣く言ふ、『さきざきも申さむと思ひしかども、必ず心惑はし給はむものぞと思ひて、今まで過ごし侍りつるなり。さのみやはとて、うち出で侍りぬるぞ。おのが身は、この国の人にもあらず、月の都の人なり。それをなむ、昔の契りありけるによりなむ、この世界にはまうで来たりける。今は帰るべきになりにければ、この月の十五日(もち)に、かの本の国より、迎へに人々まうで来むず。(略)』

「月の都」に住んでいたと告白をするかぐや姫。何か前世の因縁により、記憶を失わされて地上に落とされたらしい。それはどうやら「罪」だったようで…ありそうな話だと、道ならぬ恋とかでしょうか。

このサラッと書かれている「月の都」。
物語のクライマックスでは、8月15日(旧暦なので満月)の夜、雲に乗った天人達が現れ、2000人の帝の兵士たちをこともなげに無力化します。圧倒的なその力。迎えに来たものの中には王らしき天人の姿も。

記紀や日本の神社には、あまりこのような思想は無いように思います。

そして、月といえば、兎です。
「兎は月で餅をついている」というイメージ。これにはいくつかの由来の説があります。そのうちまとめますが…。

・ジャータカ説話
飢えた老人(帝釈天の化身)に食事をとらせるために、自ら火の中に飛び込んだ兎をたたえて、月に上げた(仏教説話「ジャータカ」が起源であり、「今昔物語集等」に伝わる)
・嫦娥伝説
・本来、月にはヒキガエルが住むとされていたが、ヒキガエルを意味する「顧菟」の「菟」の字が「兎」として捉えられ、ウサギが住むことになった。

双方の説話とも古く、「竹取物語」が語られていたころには日本に伝わっていたと思われます。

かぐや姫がかつて住み、兎が住むとされた、月という場所。

平安の読者たちも、月を別世のものとして見ていたのは、間違いありません。
月を巡る宗教観・俗説の変化は、調べる価値がありそうです。

そういえば、望遠鏡も無く、西洋では地動説などはるか先の発明だったこの時代、果たして月のことを、土地がある場所として認識していたのでしょうか?

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竹取物語の作者等についても興味があります。

物語は作者不詳となっていますが、竹取という貧しい職業を主人公とし、貴族が無理難題で苦しむのを哀れみ、帝ですら汚れた地上の人間とする、反体制的な物語。当時の主流の藤原氏に対する氏族の作ではないかという説があります。
その中で候補にあがる讃岐忌部氏。

あるいは、竹取物語伝承が残る神社「讃岐神社」が鎮座する奈良広陵市は、阿多隼人(はやと・九州の部族)が移住させられた土地でもあります。阿多隼人は竹栽培、竹細工を担いました。記紀の編纂は、ヤマト王朝の中央集権化を進めるためであったという説があります。前述の海彦・山彦の話も典型的です。
この土地に、国津神を祀る神社が多かったり、阿多隼人が月を信仰していたのではないかという説があったりと、国津神系の兎神を研究する者としては、まだまだ調べるべきことが多そうです。

これはそのうち(いつになるんだ)。

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ところで、このかぐや姫。“ジブリ史上最高の美女”というキャッチがついております。私的には、ラピュタのシータの方が(略)


兎と月とかぐや姫」への1件のフィードバック

  1. 世良 康雄

    勉強なります🙏
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